麻生区市民健康の森 ― 麻生鳥のさえずり公園 ―
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会報32-4 麻生鳥のさえずり公園に思う

元川崎市緑政部 市民健康の森担当川崎市緑化センター園長 萩原 哲
[平成23年(2011)03月31日発行会報第32号から]

この地とのかかわりは、昭和終わりに、周辺何ヶ所かで宅地開発が進み、それに反対する運動が盛んになっていた頃でした。

現在の「麻生区市民健康の森」は、宅地開発は免れたものの、学校建設予定地として長い間放置されて、密生した篠竹で覆われ地形すら分からない状態でした。

多摩緑地保全地区(都市計画決定以前)の木林に不似合な痩せたトウカエデが植えられており、不自然さを感じたものです。また、多摩美こぶし町会の場所は、伐採された斜面地に枯れた松の老木が1本、抵抗のシンボルのように立っていました。そのあたりから東方を眺めると、多摩美公園の桜の向こうに、日本女子大方面の森の若芽が膨らんで霞のように見え、素晴らしい景色でした。母を連れて、家族でお花見をしたことが偲ばれます。

当時、市民健康の森の土地には、宅造地のU字溝が埋まっていて、忌々しく思ったものでしたが、先日訪れた時には、保全活動の人たちの腰掛けになり、木々は何回もの植樹のほか、小学生のどんぐりの種まきなども行なわれ、立派な雑木林の形をなしてきました。不自然だったトウカエデは、開発から緑を守ったシンボルのように威風堂々の景観をつくっていて、感慨深いものがありました。

当時は、緑を残すのには森の木を切るなどもってのほかとの考えが主流で、その結果、山は荒れ放題でした。その山も、市民が地道な努力で手入れすることで、林内の風通しもよくなり、木々が生き生きと輝いているのを見ると、心が一足早い春の気分になりました。

しかしいっぽうで規制逃れの醜い手法の宅地開発があり、残念でなりません。それに対する保全運動は、古くからの住民も一緒に進められているとのことで、この地域で蓄積された経験と行動力があれば、必ず良い結果が得られると確信します。都市の緑が少しでも多く残り、生きとし生きるものすべてに優しい環境が保全されることと、皆様の活動がますます盛んになることをお祈りします。

※ 編集部より 萩原さんには、1月29 日「里地里山ナチュラリスト入門講座」第10回で、緑地巡回と講演をしていただきました(会報32-1参照)。

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