麻生区市民健康の森 ― 麻生鳥のさえずり公園 ―
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会報14-1 秋の森の観察 くっつく草の実の生きるドラマ

自然観察指導員 高橋 英 [平成18年(2006)09月30日発行会報第14号から]

もてない貴方にも、もてもての貴方にも、ひっついちゃうぞ~、くっついちゃうぞ~、と通りがかる人を待っている「ひっつき虫」の私たち。そう、虫は虫でも、皆さんお馴
染みの草の実です。そんなイヤな顔しないで、秋を謳歌する姿、命をつなぐ営みを見つめて下さい。木陰を彩る森の仲間なんですから。

img607ダントツのひっつき虫は、私イノコズチ。市民健康の森には、ヒナタイノコズチとヒカゲイノコズチがあるけど、ひっくるめてイノコズチでいいわ。9月頃、3mmくらいの小さな花が咲きます。知る人ぞ知る「気品のある花」なので、ルーペでのぞいてみてね。未熟の実が花穂にぴったりついてタテに並んでいるさまは、突進している猪の子のようだって。実が熟すと、根元から出ている2本の針状の突起物でくっつきます。突起物は外側に反りかえっていて、これでしっかりつかまるから、どこかいいとこ連れてってね。

お次は私、チヂミザサで~す。葉の形はコブナグサに似てるけど、花がミニミニほうき形ならコブナグサ。私は、ミニミニ笹の葉で縁が縮れ、花序は10cm前後で、枝を分け、それに小さな花が咲きます。こっちもルーペでよく見てね! 雌しべは薄ピンクでブラシ状、雄しべは紫色の葯を細い糸でたらして、花粉を飛ばすんです。これぞ芸術的な技だと、自慢しているんですが、どうでしょう?実はチカチカしてズボンにも動物の毛にもくっつくので嫌われものだけど、紫色した芒が私の武器なんです。これから粘液を出して、刺し込んだらさらに粘液で接着するという術なの。払ったくらいでは離れませんから、よろしくね。

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秋は実りの秋っていうけど、野草も樹木も何百万年にもわたって生存のために改良と工夫を重ねてきた技をもって、子孫をふやす大事な季節。毛や翼をつけ風の力を利用して飛ぶもの、水の力を利用するもの、鳥やアリやリスなどに運ばれるもの、ドングリの仲間のように重力で落ちるしか技のないもの、種子を弾き飛ばす弾糸までつくってしまったキツネノマゴ、などなどがあり、多技多彩だ。

とにかく、野に、山に出よう。百草百木は命のリレーに厳格に生きている。そこは、われわれにとって心のふるさと、命のふるさと。おおらかに、のびやかに、草木の営みと触れあおう。

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