「金春流能楽師 中村昌弘の会」(第1回)を拝見して    小 川 芳 邦

4月25日()、目黒喜多能楽堂において中村先生の第1回の個人公演が喜多能楽堂を満席にして華々しく開催されました。寡聞にして能楽堂が満席になるのを見たことがなく、その意味で非常に感動的でした。これは先生の何年にもわたる精力的な能楽普及活動と後援会の皆さんの絶大な支援活動の賜物と思われます。

 まづ先生の丁重且つ軽妙な挨拶のあと、解説の金子直樹さんから家元を始め金春流一門の重鎮の方々の手厚い応援、そして今回、中村先生が選ばれた「融」についてこのような会の場合、一般受けする演目が普通であるのに敢えてクツロギの小書き付きの「融」を演ずる中村先生の意欲を高く評価されました。

 最初に、目出度い時に演ぜられる「翁」を素謡で家元をシテとしてツレ、狂言をそれぞれ一門の方々が裃、袴の正装に威儀を正して厳粛に謡われました。

 次に一門の重鎮の方々の仕舞の最初に予定されていた中村先生の子供時代からの師匠であられる高橋万紗先生が入院中のため中村先生が仕舞「鵜ノ段」を演ぜられました。

 続く三番の仕舞はいずれも金春流の重鎮であられる本田光洋師、高橋 汎師、桜間金記師によって演ぜられその正確、重厚な仕舞は満席の皆さんを魅了されました。

 場面は大蔵流 狂言 「棒縛り」に移りその軽妙な発声、所作に満場、笑いに包まれました。いつもながら感心させられるのはその発声や所作が並々ならぬ修行の賜物と思われることです。

 最後にいよいよ中村先生のシテで「融」クツロギです。私は一昨年、約半年間、独吟「あれこそ夕(イウ)ざれば。~~跡をも見せず。なりにけり。」の部分を中村先生のご指導をいただき、不十分ながらなんとか終えたと思っていましたが実際の舞台を拝見し、特にロンギのところなど私の謡いの未熟さを思い知らされました。それはさておき「能を10倍楽しく観る講座」が15日に開かれそれを聞いていましたので非常に参考になりました。特に老人が汐を汲むところ、田子を置き捨てるところなどが印象に残りました。クツロギの小書きについてはお囃子の調子を変えると説明がありましたが、私が謡いだけで仕舞をやってなく、お囃子の拍子など無縁なので理解に苦しみました。それぞれ見所がありますが後シテの早舞の優美さが流石先生ならではだと感心しました。ただ中入りでのアイの口上が残念ながらちゃんと聞き取れず、惜しまれます。

 今回の能で大鼓の人間国宝、亀井忠雄師の音色には思わず背筋が凍りつくほど感動しました。中村先生のため出演頂いたことに感謝したいと思います。     

最後になりましたがワキ方 野口能弘師の確かな謡いには頭が下がります。いつも感じることですがワキ謡いの修行は並々ならぬものと推察しています。

かくして中村先生の第一回個人公演は大成功の裡に終わりました。第二回以降にも大いに期待しております。